チタン一筋! 株式会社東京チタニウム 工場見学①

インタビュー/特別寄稿

2018/01/15

人と環境に優しいチタンの可能性は無限だ

世の中には様々なシゴトがある。経営者にお話を聞いて見て触れて、そのシゴトのことを伝えていきたい。
ー原子番号22 元素記号Ti チタン。
さいたま市岩槻区に「チタンのことならどんなことでもお任せください」と日本のチタン事業のパイオニアの道を走る会社がある。
株式会社東京チタニウム。
軽くて丈夫で錆びない、そのうえ生体適合性に優れた特性を備えたチタンという金属を扱う企業のことを紹介しよう。

雲ひとつない冬晴れの12/6、株式会社東京チタニウムを訪問した。事務所の入り口には「WELCOME 御来社ありがとう御座います ○○様」とのメッセージボードがあり嬉しい出迎えに感激。

株式会社東京チタニウムは「さいたま市CSR認証企業」の一つであり、認証制度2年目の平成25年に認証された企業である。さいたま市CSRチャレンジ認証企業自らの事業活動の維持・拡大を図りつつ、社会的健全性を両立させる企業経営(CSR:企業の社会的責任)の推進を図ろうとする意欲のある市内中小企業を、さいたま市が「さいたま市CSRチャレンジ企業」として認証する制度です。認証企業におけるCSR経営のさらなる向上支援を通じて、地域経済の持続可能な発展や本市産業のイメージアップ、さらに社会課題の解決促進を図ります。(さいたま市HP「さいたま市CSRチャレンジ企業」認証制度より)

工場の入り口にはひときわ目を引くチタン製のシーカヤックがある。

【解説】
全長:4900mm :900mm 高さ:480mm
材質:Pure Titanium TP340 t4.5 重量:47kg
軽い!これがチタンの特徴の一つだ!

株式会社東京チタニウム

会社概要から

医療に。食品に。海洋に。宇宙・航空に。ロボットに。私たちの未来は、チタニウム無しには語れない。

●事務所・第一工場
埼玉県さいたま市岩槻区古ケ場2-2-9
●本社(ショールームはこちらにある)
埼玉県さいたま市岩槻区古ケ場2-3-10

代表取締役会長 小澤日出行
代表取締役社長 小澤良太

●設立 1984年9月1日
●事業内容
チタン、ステンレス、レアメタル加工販売、材料販売
インプラント等の医療機器の製造
海底調査・海洋調査用機器・部品製造販売
プリント基板・化学プラント・半導体設備用部品製造・販売

営業品目
チタン材(丸棒、線、板、パイプ、六角棒、異形材)
チタンバネ材(板、線)、チタンナット、チタンワッシャー
チタン製熱交換器、ステンレス製熱交換器、活魚飼育用熱交換器
音専用熱交換器、チタン製電熱ヒーター、チタンボルト
チタンクラッドバー、チタンバスケット
アルマイト用チタン治具、チタン保護管

・医療機器産業・・・・・チタンの無毒性・生体適合性は他金属に比べて突出しており、アレルギーを引き起こすこともありません。これからの医療・福祉分野に対する様々な応用や展開が、大いに注目されています。
・食品製造産業・・・・・耐食性に優れるチタン材料は、様々な食品分野で使われており、塩分の高い濃縮調味料や加熱殺菌の装置部品として重用されています。また、イオン化しにくい事もチタン材料の特徴です。
・海洋開発関連産業・・・・・・しんかい等の有人潜水調査船を擁する海洋研究開発機構のプロジェクトチームに参加し、チタン製高強度フレーム等の製品を提供。日本は海洋国家であり、今後の海洋資源の採掘にますます期待が寄せられています。
・宇宙・航空機産業・・・・・・チタン合金特殊鋼と同等の強さをもち、500℃前後の高温でもその性質はほとんど変わりません。そうした特徴からチタンは温度変化の激しい環境にさらされる宇宙開発や航空機産業にとって不可欠な素材となっています。
・ロボット機器産業・・・・・・軽量・高強度のチタン材料は、より生産性の向上を図ることのできる素材として、ロボットアーム等に使用されています。今後、海洋開発や宇宙開発等で使用される可能性のある金属です。

軽くて丈夫で錆びない、そのうえ生体適合性に優れている

「チタン」、この魅力的な素材と企業の特色について小澤健太専務取締役にお話を伺った

本社の2階にはショールーム“T-café”がある

 スポンジチタン=自然界に存在するチタン化合物からクロール法によってチタン金属分のみを抽出した多孔質のもの

 インゴット=スポンジチタンから精錬したもの

Ti(チタン 元素番号22)、Nb(ニオブ 41)、Ta(タンタル 73)、Zr(ジルコニウム 40)、Mb(モリブデン 42)と元素記号が描かれている。

2階には2017年7月に開設したショールーム“T-café”があると聞いていたので期待を胸に階段を上った。
ウエルカムボードに出迎えていただいて室内に入ると、目に飛び込んできたのは、スポンジチタンとインゴットである。

説明する小澤専務

ショールームが担う営業のツールとしての役割

 直に見ていただくことで正確で迅速な仕様(レシピ)の確定ができる

加工の仕方で表面が・・・・と説明する小澤専務

このショールーム“T-café” はチタンに関する情報発信、チタンに関する情報の展示を集めようと開設したものだ。

ホームページからの問い合わせ~受注の形も増えてきている。営業担当者が客先を訪問し説明をして受注の仕様を決めるやり方でやってきた。

それでは訪問できる件数も限られるし、時間、交通費もかさむ。営業担当者が持参するサンプルも限られるので、効率の良いやり方とは言えない。

展示している板を見せながら小澤専務の説明が続く。こちらの板とこちらの板は加工の仕方が違い、目で見て手で触って質感、手触りを確認してもらえる。正確で迅速な仕様(レシピ)の確定が出来る。思っていたのと違う仕上がりだったというミスマッチのリスクも回避できる。お客さまにはお手間を取らせるが、お越しいただくことは双方に大きなメリットがある、とショールームが担う営業のツールとしての役割を強調した。

「一般社団法人チタン協会に加盟している東京チタニウムのショールームに来れば技術・材料・製品についてすべてわかりますよ」

また、併設されている工場で、加工工程を見ていただくことで我が社への信頼が厚くなる。出て行く営業から来ていただく営業へと変えていくところである。

「このショールームには、我が社の製品だけでなく、チタンに関する加工技術、他社の製品も展示している」

「一般社団法人チタン協会に加盟している東京チタニウムのショールームに来れば技術・材料・製品についてすべてわかりますよ」というコンセプトで作ったショールームなのである。

 

棚にはチタンが使われている展示物がいろいろと並んでいる

 板 熱を加えて延ばしたもの、加えないで延ばしたもの、表面の質感の違いを触って確かめる事ができる。お客様のイメージしているものがわかる。溶接の仕方で料金も変わってくる。

 大深度高機能無人探査機「かいこう」にはいろいろなところに耐食性(白金に次ぐ)、強度、軽さに優れた東京チタニウム社製のチタン製品が使われている。精密溶接の技術の高さを示した展示でもある。

 チタン球 水中カメラケース スプロケット 色々な太さの丸棒 耐圧容器 骨組み(展示品は実物の1/10)

その他、海底ケーブル光ファイバーのジョイント部品は近年メンテナンスの頻度が上がっており、耐食性、強度、軽さに優れたチタンが使われることが増えている。(海洋関係が社の売り上げに占める割合は20%。化学プラントなどが20%、医療で20%、半導体・液晶に20%と多分野を扱っている)

 

 

医療関係に力を入れる

チタン材料は生態適合性がよくアレルギー反応を起こしにくい材料だ。直接人体に触れるものが多い医療用製品には適しているといえる。また、用具・容器に使用すれば軽量で耐腐食性も高い為、使用者の負担軽減や製品寿命の向上にも繋がる。

ガイコツにびっくりしたのだが、人体の各所に使われているチタン製品。インプラント、頭蓋骨プレート、ペースメーカーケース、人工骨、ピンセット、手術用のクリップ、医療用フィルム、人工股関節骨頭コンポーネント(研究加工品)

このコーナー、壁面、テーブルはチタン製。丸棒の耀き、テーブル表面の縮緬のような模様が美しい。T-caféはおしゃれなバーのようだ。社員の憩いの場として大画面TVでスポーツ観戦などもいいかも、但し、きれいに使ってくれたらと小澤専務談。

アウトドア用品の「スノーピーク社製」の容器「雪峰」など。

他社製品の展示販売も行うとのこと。 今後は溶接のサンプル、機械加工の表面のサンプルなども展示していく考えだ。

【東京チタニウムのビジョン】

①自社で研究開発した製品を発信していく

少子化や国内マーケットの縮小の中で、今のような受託加工だけの仕事のあり方では、将来限界が出てくるだろう。数年の間に自社製品を作って、自社がメーカーとかブランドになっていくような仕事にちょっとずつ移行していきたい。
まさに小澤日出行会長が創業した1982年当時目指していた方向性である。
そこで、新たな柱としての「医療分野への取り組み」を打ち立てた。後に掘り下げたい。

②チタンに関する情報を発信していく

【ビジョンを担う人材採用の話をお聞きした】

㈱東京チタニウムは、製造部14名、設計3名、総務・経理3名、営業・営業事務10名、約30名で営業している。
製造・事務については売り手市場の求人市場の中でも特に困ることもなく採用活動を進めているとのことだ。ハローワーク経由と、小澤専務が絶えず関係構築に努力されている研究室からの採用である。事務職もハローワークを通して商業高校から採用している。
さて営業職だ。セールスエンジニアであるからには図面を見る力もあり、加工の知識も要求される、金属のことも知っていなければならない。複雑で高度なことを要求される部門だ。人材の確保はなかなか大変だと専務は言う。

【採用広報につながる活動・・・・・・工業系の大学での講義は種まきだ】

2018年度入社予定者は、工業高校から2名だ。実は芝浦工業大学からも我が社に来てほしいのだが、と前置きして、大学の応援やキャリアプランのボランティア企業として講義に行っている様子をお話しくださった。

芝浦工業大学にはデザイン工学科がある。東京チタニウムが、今後自社開発製品を出していくとき、パッケージや(医療現場での)機能性を備えたケース、安全な材質など、アートな感性に加えて機能性とデザイン性が備わった設計が出来る人材がほしいからである。
学生には「あなたがデザインしたものが病院や医師に使ってもらえるんだよ」とアピールしている。
高校生向け、大学生向け、と対象に合わせて講義の仕方、語り口にも工夫を凝らす。

【リクルートに特化した「入社案内」パンフを作った】

リクルートに特化したパンフレット「RECRUITING PROFILE チタニウムという未来」も作成した。そこでは会社の温度、カラーがわかるように心がけ、学生が「自分が入社したらどういう風に育ててもらえるんだろう」「どういった制度があるのだろう」がわかる構成で作った。事業の分野の紹介、部門ごとに若手社員が業務の特徴を語っていて、入社後の研修資格取得のカリキュラム、福利厚生制度を易しい表記で紹介した。作成にはさいたま市の助成を受けている。
「会社案内」のパンフレットはあるが、これから入るひとの目線のパンフレットがあるとイメージが湧きやすい。

 製造部製造課 金井慶太郎さん/営業部 白鳥哲也さん

営業部設計課 丸岡進也さん/営業部 遠藤優花さん /新入社員研修制度/賃金体系・福利厚生

【芝浦工大の学生フォーミュラ応援、大学・高校からのインターンシップ受け入れ】

人材を勝ち取るための地道な取り組み

他に、芝浦工業大学の講義のときには「鉄」「ステンレス」「チタン」「銅」の円盤を持参して触ってもらう、「錆」の差を目で見る、など金属を肌で感じる工夫をし興味をもたせる努力に余念がない。

そして学生フォーミュラ」の応援がある。
本社1Fにあるウォータージェットという水で金属を切断する機械で切ってあげたり、学生たちに機械を使わせてあげたり、(物によるが)多少の材料費、加工費を頂いて協力を続けているのだ。「デザインをして自分で作りたいんだ」というのだから、普通の「ものづくりが好き」よりもっと強い興味を持っている学生たちだろう、もしも第一志望の大手企業に落ちたら我が社に興味を持って来てくれる学生がいれば良いなと専務は話す。

それから埼玉には「ものつくり大学」がある。ここは工業高専のように即戦力になる実技科目が多い。我が社にいる卒業生の社員を伴って挨拶にいき顔を繋ぎインターンシップにきてもらっている。

また、高校からのインターンシップの受け入れも積極的に行っている。(大宮工業高校、浦和工業高校、岩槻商業高校、大宮商業高校)

いろんな機械のある工場で手伝いをする工業高校生の緊張感や、『インターンシップの期間中の○○でございますが』と冷や汗あぶら汗で電話に出て頑張っている女子生徒の様子が目に浮かぶ。

ものつくり大学以外にもインターンシップにきてほしいと思う。申し込みをクイックリーに行うQRコードを入れたチラシを配布するなど、工夫をしている。

インターンの初日に「チタンの雑学」の講義を半日、社員(男女2名)(専務は補佐)で行うのだそうだ。

【自社で製品開発をしていく、その実現に向けた人材計画、展望や課題などを聞いた】

現在、チタン製の医療機器の自社製品加工の事業化を目指す数名のプロジェクトを立ち上げてこのように考えている。
①医療に従事している、または経験がある人を雇用し研究開発プロジェクトに参加してもらい推進していく。
②工業高校出身者、中途採用者に現在の会社の主力の「受託加工」の業務のエキスパートになってもらいたい。

現在は研究開発のために週2日とかあらかじめ決めて取り組んでいる研究開発メンバーは受託加工業務との兼務である。この一年は売り上げが半減しても、研究開発に注力専念するのだという方向もある。いや、受託加工に8割、研究開発に2割力を注ぐかと、ためらいや怖さも感じる。経営の舵取りにかかっていく課題だ。2人で1人分でも構わないので一人前に育ってくれる中で、研究開発メンバーが専念できる体制にシフトしていけるだろう。

【製造部門の資格技能について】

玉懸け・床上式クレーンは安全上早期に全員に取得させる。交通費も含めて会社が全額支給だ。業務に関係ある資格・研修を申請して社員が積極的に取得している。

工業高校生は内定が出てから半年ほどある。入社までに取得しておいてほしい資格などを会社が示す。就職するという意欲、意気込みを見極める試金石ともなる。自己投資、自己努力、自己犠牲できる人材なのか。その次にスキル・技能・知識がついてくればいいのかなと思う。

【面接のときに彼らに話すことは】

「会社はこういうことを社員にもとめています。目的を示します。それに対して同意しますか。同意したということは覚悟を持って我が社に来てください。やるのなら会社はあなたを保護します、と時間をかけて話をします。実際、近年離職率が下がりました」。

「働き方の価値観は人それぞれである。最低限の給料で、最低限の仕事量で、定時まででという社員もいる」。

「ビニールハウスの中で肥料も与えられ、温度管理され、大切に育てられたのが、いきなりビニールをはずされて、寒風、雨風雪にさらされ、立ち尽くしなじまずにいるような若者たちが多い。本来は家庭や学校で身に付けてきてほしいところだが、言ってもしかたがない。大人社会が彼らをそのように育ててきてしまったのだ。躾もふくめて会社のカラーに染めていく覚悟が企業側にも求められる。社員一人ひとりに合わせた話をしている」。

【高校へのアプローチは】

企業の魅力を話せる経営陣が、進路担当の先生に語るというのは意味がある。先生への入り方、訴える力が違う。また学校での講義やセミナーの機会があったら積極的に活用していくようにしている。

【100年続く会社、従業員が笑顔で仕事をしていける会社】

今、従業員が求めているのは、「環境」「仕事の内容」「給与」だ。

給与について。例えば残業代の上限を設けるとして、従業員が質的に高い仕事をしてくれたら会社は利益が出て報酬として給与に上乗せできる。会社を信頼して働き方を変えていく方向に導きたい。早く仕事をアップするためのツールの提示なども会社は積極的に行う。従業員がツールを取り入れ「残業代で稼ぐ働き方」から脱却して成功を実感してくれるようにと考えている。

【まだ製品ではないけれど、チタンでこんなものを作ってみました・・・】

「女性社員の記念日(誕生日など)にこっそり何かを作りたい、と思ったのです。コルクのコースターにチタンをあしらったもの、マドラーやトング・・・。売ろうと思わずに自分たちで作ったものをHPに掲載してみようか。ノベルティグッズとしての作ってみてもいい。世間の人の眼に何がとまるかわからないですよね」。

会社のブログにも社員がチタンの端材でつくってみたというコーヒードリッパーのことが掲載されている。ものづくりのマインドが光る。積み重ねの中で何かが生まれてくるに違いない。

■■次回は、いよいよ工場の中を見せていただく

株式会社東京チタニウム
〒339-0072 さいたま市岩槻区古ヶ場2-3-10
TEL 048-795-0470 FAX 048-795-0473

チタン一筋! 株式会社東京チタニウム 工場見学②