いのちの授業 1

インタビュー/特別寄稿

2017/11/14

―「北海道札幌国際情報高等学校」での取り組み

 2017年4月28日、北海道札幌国際情報高等学校において、「北海道いのちの電話」による、ある取り組みが行われた。

日本の若年層の自殺率が先進国の中で何年もワースト1で推移している状況を受けて、全国に50のセンターを持つ「いのちの電話」の中の一つである「北海道いのちの電話」が、若年層に向けて発信する取り組みの一つである。(参照「いのちの授業2
対象は2学年普通科2クラス80名。同校で行われている2学年対象の「リサーチプロジェクト」の中で行われた。

北海道札幌国際情報高等学校は、平成7年4月、発展する21世紀において個性と創造性を伸ばし、国際社会の発展に積極的に貢献する心豊かでたくましい人材を育成するために、国際化・情報化に対応する複合的な教育を目指し、北海道教育委員会の新学科集合型モデル校設置の方針により、4つの大学科からなる新しいタイプの高等学校として開校、北海道におけるリーディングスクールとして発展を遂げてきた。平成27年には時代の要請に伴い、それまでにあった「情報技術科」を「理数工学科」、「情報システム科・流通サービス科」を「グローバルビジネス科」と学科転換し、設置学科を「普通科」「国際文化科」と合わせて4学科とした。学校教育目標は、「世界の人々から尊敬されるグローバルシチズン(地球市民)としての日本人教育」。平成27年からはSGH(スーパーグローバルハイスクール)アソシエイト校の指定を受けている。

特に、今日本企業が求めている力をつけるためのPBL(プロブレムベースドラーニング・問題解決型学習)に力を入れており、今回取り組んだ2学年ではその力をつけるための「リサーチプロジェクト」という授業形態の中で自己の考えを発信するという取り組みが実施されている。

「いのち」と向き合うこと 物事の本質みつめること

今回、この授業に取り組んだ2学年学科主任の高橋一嘉先生にお話を伺った。

当日はまず、「北海道いのちの電話」からの講師の講演を聴き、その後10人1グループに分かれ、リサーチするグループテーマを設けグループ討議を行い、その結果を全体で発表するという形が取られた。これは、このテーマに向き合う時、単にお話を聴くという一方通行ではなく、対話型アクティブラーニングの形を取ることで、生徒一人一人が課題に向き合い考えるという事を大切にしたいという高橋先生の考えがあった。

今回のテーマは、「自殺」というある意味デリケートな問題。このテーマを取り上げることについてのお考えを伺った。今、「いじめ」や様々な問題で「自殺」というあまりに悲しい道を選択してしまう子どもたちが後を絶たない。しかしながら学校現場でストレートに「自殺」という問題と向き合わせることには二の足を踏む学校が少なくない。敢えて向き合わせることで、心の奥底に持っているかもしれない「自殺願望」のようなものを呼び起こしてしまうことを恐れるからだ。

「しかし」と高橋先生は語る。本来学校教育の現場では、重い問題に向き合い真摯に考えるということが基本的なスタンスであるべきだという。今の10代の子どもたちにとって、「死」を身近に感じる機会は少なく、「自殺」についても報道やネット上での情報として知ってはいても、自分たちの問題として向き合うことは少ない。とても難しいことであるが、だからこそ、「自殺」の問題に向き合い考えることが必要で、そこにある問題が何なのか、それを知らずして悩みを抱えた友達の気持を本当に思いやることはできない、という。

そして、自殺願望を心の奥底に持っている子どももいるかもしれないが、そういう子どもは、もしこのような機会がなかったとしてもいつか行動を起こす危険性を秘めている。むしろこのように問題に向き合わせたことで、大人が気づき対応することができる。生かすことができるという。

今回の取り組みが、今後子どもたちにとってどう生かされていくのか。

高橋先生は、「物事の本質をみつめる力」は、世の中で生きていくために大切な力の一つでもある。難しい問題を避けずに、向き合うことを大切にしたいという。

リサーチプロジェクトでは、普通授業のように「求められる答えに導く」というものではなく、答えが用意されていないテーマに対し、その場で自ら考え応えていく。そして、一回だけの取り組みではなく、一年を通して同じ課題に取り組んでいくことに意味があり、問題解決能力を養う。その中で行われた今回の「自殺」をテーマとした取り組み。その背景にある問題と「命」に向き合うということの意味。

「生徒たちは、こうしてあえて難しい問題に向き合い、物事の本質をみつめることの意味をわかっていると思います」と高橋先生は言う。

その言葉は、取材を通して、常に感じていたこと。高橋先生が子どもたちを導く教員として、子どもたちへの確かな目を持ち、学校現場を預かるものとしての責任と自負をもって日々の教育に携わっていることを表す言葉と感じた。ここにもまた、「きらりと光る」教師の姿があった。

「いのち」「自殺」と向き合って -生徒に聴くー

 このプロジェクトに参加した普通科2学年の4人の生徒さんにお話を伺った。

今回の「自殺」というテーマは、日頃あまり深く考えてはいない、ある意味未知の状況での取り組みだった。そこでまず、講演で実情を知り、その背景にあるものを考えて話し合った。

◎「いのち」「自殺」がテーマと聞いてどう思いましたか?

☆「重い」と感じました。最初は実感がなく、どう考えればよいのかわからなかったです。

☆ネットを開くと「死にたい」という言葉があふれています。でも実感として「重く」受け止めたことはあまりありませんでした。浅くて、でも遠くはない、という感じです。

☆ニュースや報道では聞いていながらも、授業(保健)の中で「いのち」について話はあっても、実感としてはなかったです。今回、講演を聴いて、実際のデータを知って、こんなにも多いのかと驚きました。

☆事故や病気ではなく、自分自身で「死にたい」と思って亡くなっている人がこんなに多いなんて、と思いました。

☆中学生の時に、実際に一つ上の先輩が自殺で亡くなりました。「ついさっきまでいた人がいない」という事を実感しました。今回は実感を持って取り組むことができました。

◎グループディスカッションでは、どんな話し合いでしたか?

☆どうして自殺したのか、その原因について話し合ってみました。普段は、考えたことのなかったことでしたが、話し合ってみると、みんな考えるところは同じでした。

☆10代での原因は、やはり「いじめ」「人間関係」。20代では環境の変化かな。30代40代の自殺に関しては意見が出しにくかったです。想像がつかないって感じです。

☆若年層の自殺は、人間関係や環境の変化がその原因なのかな、という意見が多かったですね。

 この年代は、小学生の時に「東日本大震災」を経験している。その頃に「命」について学校で話し合った経験があるという。特に道徳の授業や総合の時間、また社会科の地球環境についての授業で先生から投げかけられたという生徒もいた。「命」に関わることについて話し合う機会は、小学校の「道徳」の時間が主流のようだった。

「生きているってすごいこと」

◎今回のことを通して、自分の「命」について思うこと、あるいは「自殺」について考えることはありましたか?

☆人は一人で生きているわけじゃない。だから、自分がいなくなることによって、周りに与える影響について考えました。

☆人って生きていて、いろんなことがあるんだと思います。事故や災害にあってしまって、一瞬にして死んでしまうかもしれないことだってある。今、私たちがいること。いろんなことをくぐりぬけて今があるんだなと思います。「生きているってすごいな」「いのちって重いな」と思いました。

☆母親と話をしました。「いのちの電話」のことも話しました。母は知っていました。自分に今できることは?と思って、初めて献血にいきました。

☆内にいろいろなものを抱えて自殺するんだと思うけれど。自分に何かできることはなかったのかな、相談してくれたらよかったのに、って思うと思います。どんなささやかなことでも、人間関係に悩んだら、誰かに話すこと、コミュニケーションを取ることって必要だな、と思います。

 

「不登校の友達がいるんです」。そう語ってくれた男子生徒さんが、最後にこう話してくれた。「抱えている問題は重なっていくんです。大人は子どもの世界に生きているわけではないからわからないかもしれない。でも子どもだけで『命』の大切さ、重さに気付けてもいない。差別のない世界、いじめのない世界を作るためには、教育が必要なんじゃないかな、そういう環境を幼少期から作っていかなければならないんだと思います。」

今回の取り組みで、「北海道いのちの電話」が、彼らに一番伝えたかったこと。それは、生まれてきたこと、今生きていること。そして必ず死ぬこと。これらのことは、誰にも共通すること。人には違いがあって当然なことで、それぞれに個性があること。自分を知り自分を認め、他人を知ってお互いが理解し、ありのままを認め合うこと。一人で生きていくことは難しく、誰かの助けや支えが必要であること。辛いこと、苦しいこと、悩んでいることを話せる人が一人でもいること。生きていく中で、家族や友人そして社会に巣立ってからは企業や団体において人との関わりは欠かすことが出来ないこと。

「人は他の人から理解され、わかってもらえたと思った時、心にある変化が生じます。それが真に自分に向き合う力となり、自らを成長させていきます。」

 これは、「いのちの電話」の活動の基本を表す、アメリカの臨床心理士カール・ロジャースの言葉だ。

 

 

取材に応えてくれた生徒たちと高橋先生

取材に応じてくれた4人は、まっすぐなまなざしが印象的な笑顔の素敵な高校生。

部活動に夢中、吹奏楽部でチューバを吹いているという女子生徒。「結構真剣にやってるんで、頑張ります!」と教えてくれたのは、スキーに取り組んでいる男子生徒。「ただただ前へ、ひたすら前へ」とポジティブシンキングの男子生徒。「僕には誇れるところはあまりなくて…」と言いつつ、しっかりと思いを伝えてくれた男子生徒。ここにいて、取材に対してあれだけ自分の思いを伝えられるって素晴らしいことだよ、誇りに思ってください、と思わず声をかけた。

彼らが高校2年生の時に、リサーチプロジェクトの取り組みの中で学んだこの経験を、心のどこかに持ち続け、自らを成長させて、「命の大切さ」や意味を他者に伝えてくれる発信者となることを願っている。

 

事業実施のためにご尽力いただいたPTA役員の皆さん

次回は、「いのちの授業2『北海道いのちの電話』の挑戦」を掲載する。

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いのちの授業 2「北海道いのちの電話」の挑戦