「東京家学・関西家学」ご紹介 代表 平栗将裕氏に聞く②

インタビュー/特別寄稿

2017/10/07

平栗代表は牟田武生氏に真正面から顧問を頼んだ 

あまりにも率直な申し出が出会いを生んだ。そこから事業にノウハウが醸成され厚みが出てくる。

【牟田先生の理論、知見・ノウハウを標準化し伝えていくこと】

そこから、本当に不登校というのはどういうことで、どうやって関わっていけば直せるのかということを全部牟田先生から習ったというところが、そこがやっぱり大きな転換点だったと思いますね。

私だけがわかるだけじゃなくて社員、スタッフに教えることができるように標準化できました。

私がやってきたことは、牟田先生の理論を標準化し、広げていったことです。そうして東京家学・関西家学の事業に厚みが出てきました。理論的支柱がしっかりと入っていったわけです。

【「東京家学」「関西家学」との名づけは?】

大学の3年の終わりごろ、事業が始まったころに屋号を考えて仲間と話し合っていました。「ホームスクール東京」に決まりかけていたのですが、全部漢字がいいと私は主張しまして、デザイナーの後押しもあって、漢字四文字の「東京家学」になったのです。

お子さんのことで悩まれている親御さんが、東京家学のパンフレットを開いたり閉じたり、ホームページを何度も見たりするでしょう。「家」のところが色が違い、印象に残ります。家学にお世話になろうと。

【これからの課題、展望を聞く。学校に戻すことだけがゴールか?】

今までは、今まではというか、これからも大事なことではあるのですけれど、不登校をどう直すか。どうやって学校に戻していけばいいんだろうっていうことを考えていましたけど、戻れる人は戻ったほうが、本人も親も喜びますから良いのですが、やっぱりそこでちょっとジレンマを感じるのは、それがやっぱり「適応教育」ということですよね。何かに適応させていくというふうなことであって、本当はやっぱり教育ってその人の才能を伸ばさないといけないというか、引き出してあげるのが教育だと思いますから、その子どもたちの才能を引き出して育てるような教育、子どもたちからとってみれば、早いうちに自分の才能とか職業適性とかに気がついて、自分のやりたいことというのを実現できるような、そういう学校というか、教育施設になりたいなと思いますね。

【人間って皆偏りがあるはず、多様性を認める生き方に牟田先生の名言が】

発達障がいを少なからずもっていることと関連して。牟田もよく言うんですけど、人間はみんな四角で生まれてくる。でも四角だと角がぶつかって傷つけあうから,みんなその角を落として丸くしようとするんですよね。でもその過程でこう何か四角の立方体があったら角を落としてこすっていったら、丸くなるかもしれないですけどちっちゃくなりますよね。

だから、角は角として生かして、足りない部分を増してあげたら大きい丸になるでしょう、というふうに。削るんじゃなくて。その削り取ってしまうということが適応教育の中では、すごくあるような気がするんですよね。

何でもまんべんなくできる人ってなかなかいないですよ。いたら超優秀な人ですよね。普通になりたいという子たちは多いと思うんですよね。子供たちの思いとしても、普通に生きていきたいみたいな。でも、今はこういわゆる普通になるハードルってすごく高いですよね。20代の4割の人が非正規で働いているとかいう状況とか、以前ならみんな当たり前に普通にできたことをやるというのは、今、どれだけ大変なんだろうというような時代になってきていると思います。型にはめて普通にするということじゃなくて、違う生き方もあるだろうし、今までなかった働き方だってあるだろうし、そういうことをどうしていくのかというのは、みんなよく考えていることだと思うんですよね。だからこそ「教育改革やらなきゃ」ということで文科省も動いていますし、私たちは私たちで、ちゃんと社会に出ていけて、しかも楽しく生活できる人材をどう育てるかということはやっていかなきゃいけないし、やりたいことだなと思っています。

【お客様に叱られたことが家学の財産になってきた、親への支援こそが大事~家学通信、土曜講座をスタート】

家学通信 2017年9月号表紙

大学3年の終わりごろ、最初はサークルの集まりみたいな感じでの出発でした。そこに牟田先生の理論を標準化したり、企業の事業の形に成り立たせる中では、まあいろんな失敗がありました。事業を立ち上げたときに、こんなふうな会社になるだろうななんて思い描いたのは、そのとおりにならないですね。やってみて壁にぶち当たって、失敗したから、ああ、これは間違ってたんだなって初めて気がつく。振り返ってそういう繰り返しだったと思います。

 

うまくいく生徒はちゃんと、こうしたほうがいいな、こうしてあげたいなと思ったことがぴったりはまって、順調にに学校に行くようになりますね。そして結構実績もあります。

でも最初のころやっていて一番困ったことというのは、保護者への支援を勘定に入れていなかったことなんですよ。子どもにだけ対応していけばいいと思っていたんですよね。だから不登校専門の家庭教師みたいな感じで始めたんですけど。でも背景にはやはり家族の中での今まで積み重なってきたことだとかありますよね。

親としたらどうしたらいいんですかというふうな質問や相談だって当然たくさんありますね。その部分がやっぱり長いことできてこなかったです。それで、何でしょう、今も言われることがあるのかもしれないけど、本部の人は何もしてくれないというふうに映ってしまうときがありましたね。

スタディパートナー(訪問している大学生)は一生懸命やってくれてるけど、あなたたち本部の方は何をやってるんだみたいなことを言われることは、よくありましたね。ものすごくクレームも多かったし。だからもう、そういうふうな感じで、たしかに純粋にビジネスで考えれば、保護者向けのサービスをしないほうが会社にとってはその分の労力を割かなくて済むし、人員を割かなくて済むので楽ですし得です。だから、そういうところはいっぱいあり、それをやらないと、やっぱり事業が長く続いていくことはできないなというふうに。私たちとしてもしてあげたいけど、そこまではできないというふうに目をつぶってきたところとかもありました。そこで、3年前、家庭向けの「家学通信」発行と情報交換の場として「土曜講座」をスタートしました。

【家学に申し込むためには、親子の合意が必須、親御さんが勝手に申し込んでくるということはしない】

親御さんからそういうふうな相談があるときもあるんですけれども、それではやっぱり絶対うまくいかないから、説得できないんだったら説得するためのどうしたらいいかというところからやるから、それだけはできませんという形にしています。名前を伏せて、不登校の支援だということを隠して会ってもらえないかとかいうふうな相談もたまにあるんですけど、それはできませんと。子どもだけが変わればいいと思っている親御さんの意見ですよね。

大事なことは、誰のせいというよりは、子どもが学校に通っていくためには絶対家庭の中での家族のサポートが要るということです。学校に1日だけ行くんだったら別にそんな大して難しい話じゃないですけど、自分の意志で継続的に毎日登校できるようにならなくちゃいけないわけですから、そのときにやっぱり3歩進んで2歩戻るみたいなことって起こってくるわけですよね。そうしたら今度はそれを家族内で繰り返さないようにしていかないといけないので。みんなで支えていくものですよっていうお話はしています。

親御さんで、なかなか考え方を改めてくれないで効果が出にくくて困ったことはあります。

でも一番、親御さんの気持ちが変わる瞬間ってあるんです。子どもにいい変化が現れたときですよね、幾ら口で諭すというよりは。子どもが実際に変われば、そのときに親の気持ちは変わるのです。いくら言っても理解してもらえないなというときは、ちょっと子どものほうに目を向けて、何とか気持ちを上向きにしていこうというときもありますね。それで、聞いてくれそうなタイミングでお話をするとか機会を見つけます。

【大学生であるスタディパートナーの成長】

今までできなかったことが、これが次の週できるようになった。その次の週、これができるようになったという積み重ね、大学生のスタディパートナーたちが、子どもたちが変わっていくのに触れて、彼ら自身も成長していきます。

大学1年生くらいだとまだわからないこともたくさんあるし、生徒にかかわってどこまで踏み込んでいいんだろうということは、割と初級のパートナーが共通で悩むところなんです。でもやはり動いてほしいという思いがなければ、何を言っても動くわけないじゃないですか。だから、(外出の提案などで)そこを何で一回誘って断られたぐらいでやめてしまうんだと。こういう気持ちなんだよと、俺も一緒にやるからやろうよというふうに誘うとか。そういうふうな自分の気持ちの表現の仕方とかはすごく学んでいくと思いますし、生徒が言葉にしないけれども、どういうふうな気持ちの上がり下がりをしているのかとか。そういうふうなことを読み取る力というか、そういうコミュニケーション能力は上がるでしょうね。

スタディパートナーたちの大学での専攻・学部は多彩なんですよ。もともといろんなタイプの人がいるということが自然だと思っていますので、教育だとか心理の人だけじゃなくて、経済だとか、工学だとか、芸術だとかいろいろなパートナーを募集しているんですけれども、彼らはそれぞれの道を実現していきますよ。ある学生が言っていたのは、就職の面接で不登校の子たちの専門の家庭教師をやっていましたというと、「え、何それ?」とどこの企業の面接でも聞いてくる、詳しく聞きたいっていうことです。

やっぱりコミュニケーション能力で鍛えられるところもあるでしょうし、大変だけど、学生のときにそういう経験ができたというのは大きな体験なんじゃないかなと思います。

 

うまくできない子たちが目の前でこうやってもがいている。外に出てきたいけれど、出られないでいる。家族が心配しているけど、それに応えようとするとうまくいかないでいるというような子たちの相手をしているスタディパートナーたち。

それまでの人生でうまくいかない経験を持っているスタディパートナーは多いです。それが共感する力にもなっています。

最近スタディパートナーをやりたいという人たちが増えてきている実感を持っています。それは何なのかというと、やっぱり自分たちも閉塞感がある中、学校生活を送っていたなというふうな、その同世代感があると思うんですよね。だから、あのときは自分は何とかうまくいったけど、友だちが不登校になっちゃったなとか、あのとき支えてもらえたから今があるなとか、そういうことを多かれ少なかれみんな持っているというふうな、ある意味そういう同世代感があるから、不登校の支援と言われたときに「えー、何それ!」とは思わないんじゃないかなと思うんです。ああ、ああいうとき、あるよなというふうな感じがスタディパートナーたちの中にあるんじゃないかなと、最近はそんな印象を受けています。(2017年4月)

「わたしたちの想い」

現在では、訪問支援だけでなく、フリースクールの開校、保護者へのサポート、通信制高校との提携など、教育・支援の幅を広げ、多くの子どもたちの学校復帰を支え、多様な一歩の踏み出しの後押しをしている。(HP紹介)

「東京家学」「関西家学」学校案内の扉に平栗代表が記した「わたしたちの想い」にはエッセンスが凝縮されている。

 

お子さんの一歩踏み出すときを信じて一緒に「きっかけ」づくりをはじめましょうと、家族によびかけている。優しい染み入るようなあいさつ文である。

わたしたちの想い

-家学のはじまり-

 

不登校の子どもたちと一緒に歩み始めて、もうすぐ10年を迎えます。

 

学校になじめなかった人、不登校を経験した人など、教育についてそれぞれの想いを抱く大学生が集まり、今までになかった教育を目指したのが「東京家学」のはじまりです。創業当時のメンバーの経験はそれぞれ違ったものでしたが、「学ぶ」ことによって自分たちの状況を変えることができた、再チャレンジすることができた、という成功体験が共通していました。

だからこそ、不登校に悩む子どもたちに、将来をあきらめてほしくない、他人と同じ道でなかったとしても必ず将来を拓くことができるということを知ってほしい、という想いがありました。

 

学校に行けなくなる理由はひとりひとり違い、はじめはわたしたちもどのようにかかわっていけば良いか試行錯誤の繰り返しでした。しかし、徐々にわたしたちの考えに賛同していただける保護者の方、わたしたちのかかわり方を信頼してくれる生徒が増え、メディアの後押しや専門家の先生の助言を得て、少しずつ成長してきました。

 

現在では、訪問支援だけでなく、フリースクールの開校、保護者の方へのサポート、通信制高校との提携など、教育・支援の幅を広げ、これまで多くの子どもたちの学校復帰を支えることができました。

 

不登校の状態から、何か目標を見つけたり、人と交わっていくためには「きっかけ」が必要です。家学にはその「きっかけ」を作る方法がたくさんあります。お子さんが一歩を踏み出すときを信じて、わたしたちと一緒に、はじめましょう。

 

 

東京家学・関西家学 代表 平栗 将裕