中学生の学習支援を行う「地域教育ネット」ご紹介

インタビュー/特別寄稿

2017/07/13

中学生が安心して教育が受けられるよう、学習支援から生活支援、そして自己肯定感の育みへ Fuchu’s Leadership Program for Youths (FLY)

NPO法人地域教育ネットは2008年設立。東京都府中市を拠点に地域の教育問題と向き合うなか、府中市内の公立中学校において始まった放課後の部活動「学習部」に、学校の依頼を受けて参加、中学生の学習支援を行っている。2016年には、内閣府・文部科学省・厚生労働省の「子供の未来応援国民運動」の一環である「平成28年度未来応援ネットワーク事業」に申請し採択された。学習支援事業のさらなる充実を図るために、指導者の育成・研修にも力を入れている。

主に3つの活動を行っている。①高校進学説明会・相談会の実施 ②放課後学習活動の実施 ③講師の研修会の実施

NPO法人地域教育ネットは東京都府中市を拠点に、地域の教育問題と向き合い、子どもたちが安心して教育を受けられるように手助けを行っている団体だ。
教育に関わる事業は長く続けなくては意味がない。2008年の設立から今日までさまざまな課題を乗り越えてきたに違いない。

コンパスナビ編集部は、3つの活動のうちの「(講師の)研修会」に参加させていただいた。集まってくるメンバーは、それはそれは多彩であった。大学教授、私塾の塾長、教員、人権研究者、男女大学生、カウンセラーなどなど。
2008年から続く活動、講師の指導力アップ、意識の高さを保つ研修会実施に表れているとおり、活動が成熟している印象を受けた。

「NPO法人地域教育ネット」のホームページには同団体の真ん中に流れる太い信念ともいうべき一文があったので紹介したい。

「教育の機会均等」…だれもが生まれや育ちに関係なく平等に教育を受けることができる原則は、憲法や教育基本法で保障されています。Fuchu’s Leadership Program for Youths (FLY)は、生活環境に様々な困難を抱える子たちの学習支援や進路指導、また安心した居場所を提供することで、学力の向上と輝く個性を育てる総合的支援活動です。

明日の社会をになう子ども達が、大きな夢に向かってFLY(飛び立つ)できるよう、さあ皆さん一緒に支援の輪を広げて参りましょう!(FLYコンサルタント 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授 オックスフォード大学教育学博士 岡田昭人氏)

学校の授業についていけない中学生

東京都府中市では、経済的理由により、学習の機会に恵まれない中学生を対象にした学習支援(学習室)の取り組みを行っている。
「家だとなかなか勉強ができない」
「学校の授業についていけない」
「塾に行かせたいけど塾代が大変!」
などの切実な悩みをもつ中学生や保護者の声を受け、2010年から学校の空き教室を利用し、生徒に学習や生活の支援への取り組みをおこなっている。

週にもう一日増やしてほしい、無事に進学できた、自分を大事に思えるようになった

指導者の研修に力を入れる

NPO法人地域教育ネットのメンバーも学習支援の指導者(講師)として参加している。2016年に内閣府・文部科学省・厚生労働省の「子供の未来応援国民運動」の一環の「平成28年度未来応援ネットワーク事業」に申請、採択され助成金を得ることができたことから、学校の放課後の学習支援活動日と在籍生徒が増えている。このことにつき、同団体理事の辻由美さんから説明をいただいた。

「FLYでは、中学校の学習支援に際し、講師の育成・研修にも力を入れています。各中学校の要望や現状を考慮しながら、指導者の資質向上・指導の均質化を図り、変化する社会・教育問題に適切に対応するための研修会を月に一度開いています。教育の専門家の講義を受けながら、参加者は議論を深め、さまざまな課題に向き合っています。さらに、事例検討をすることで、より良い指導方法や教具・教材などを話し合います。計画をたて、実行し、反省し、次の行動にいかしていくという基本を忘れずに、これで良いと留まることなく、よりふさわしい教育は何かを模索し続けています。

この研修会は、教育に関心のある方や子育てをされている方など、どなたにでも参加していただけます。ひとりひとりが変化する教育問題を考え、理解することは、子育て世代にとって住みやすい環境につながります。その結果、府中が大好きな子どもがたくさん育ち、やがて地域に貢献する力になってほしいと願っています。

様々な事情により支援が必要な生徒や、力を伸ばしたい生徒などに学習の機会を提供し、楽しく学びながら、子どもたちの自己肯定感を高めることを目的としています。指導には、教員免許取得者、様々な分野の教育指導経験者、私塾塾長、大学生などがあたっています。

子どもを教える指導者にも月に一度、研修の機会を設けています。ともに学び議論しながら社会問題・教育問題を考え、子どもひとりひとりの個性や、認知の特性に合わせた勉強方法を工夫しています」。

たとえば、コンパスナビ編集部が訪問した第6回目の研修のテーマは「教育改革とは何か…教育の機会均等と結果の平等」で、講師は東京外国語大学 大学院 総合国際学研究院教授・オックスフォード大学教育学博士 岡田昭人氏であった。共に学ばせていただいたので概要を報告したい。

第6回研修会 「教育改革とは何か・・・教育の機会均等と結果の平等」

「教育は百年の計といわれ、100年たたないと成果がみえないという意味です。教育改革をしても即効性があるものではないことが前提です。

日本の教育改革の歴史をみてみましょう。

・明治の学制の設定。このとき初めて学校ができたが、天皇制的、軍国的、社会主義的要素のある不平等なものだった。

・第2次大戦後日本の教育は民主的教育改革で、男女共学、633制となり、いままでの教育とはガラリを変わり、コペルニクス的改革といわれる。

・その後の時代の要請から、科学教育の拡大、受験戦争の過激化、ゆとり教育、小中高一貫教育の導入など、
教育の負の側面や、世界情勢、世界との比較などによって小さな改革は行われていますが未だに大きな改革はない。

 

そして、2020年に教育改革が予定されています。

改革の原理には、効率、平等、自己実現の3つ価値観があります。

このうち2つを追求すると、1つが犠牲になるというトリレンマ(3つのジレンマ)が起こると言われていて、社会の経済的発展と社会の政治的発展と個人的な発展をすべて叶えることはできません。

いまの日本はどうでしょう。
新しい教育改革ではどうなるのでしょう。
格差が子どもたちにもたらしている影響はどう変わるのでしょう。」

岡田教授は最後にこう結びました。
「新学習指導要領には、授業時間の増加、新しい科目の追加、アクティブラーニングなどが盛り込まれています。評価基準がとても難しい上に、就学前からの教育が関係しそうなものも含まれています。 教育の無償化と相対する政策、今の世の中の流れに、私たちはきちんと向き合い、考えを示す必要がありそうです。教育改革に対して、私たちは、合意の有無と公平性のチェックをきちんとする必要があるでしょう」。

合意の有無と公平性のチェック

◎「合意の有無」について
現代のような複雑化した世の中では、「何か良い教育か」「良い教育のために何が必要か」といった点について、意見が分かれ、非常に論争的になります。まずは議論を尽くしてそれらをくみ取ることが一番大切ですが、それでも、全ての人が同意できる答えはありません。
それでも、できるだけ多様な意見を反映した教育政策を描くためには、政策を決めるプロセスにできるだけ多くの人の意見を反映させることが必要です。

教育政策は「お上が決めてくれるもの」だと考えて人任せにするのではなく、決定のプロセスにできるだけ多くの人が参加し、「自分の意見を反映させようとしたか」常に問うことが大切です。

◎「公平性のチェック」について
上で述べた通り、現代社会の政治的決定には、「全ての人が同意できる答え」はあり得ません。どんなに多くの人の意見を踏まえて決めたことでも、何らかの問題を抱えています。だからこそ、政策を主導する政権が定期的に交代することによって、いろいろな人の立場に寄り添った教育政策を実施することが必要です。

物事が一旦決まったからといって安心せず、「いま実施されている政策の下で不利な境遇に置かれている人がいないか」常に監視して問題提起し、「絶え間ない討論」を続けていくことも大切です」。

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その後の研修は、議論あり、ペアで考える時間が設けられたりして、アクティブな楽しい時間を経験できた。

その後、第7回はパンフレット編集会議を行ったそうだ。講師である学生たちの若い感性が生かされたものになっているとのことで、完成が楽しみである。

秋には高校進学説明会・相談会の開催も

辻さんにお話を聞いた。

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年に一度秋に府中市内の会場で、都立高校・私立高校に進学を希望する世帯に向けた高校進学説明会・相談会を実施しています。共催は府中市PTA連合会、後援は府中市教育委員会で、昨年は約650名が参加しました。

昨年の参加者は「色々な学校のコースを知ることができよかった。受験の方法や総合得点の出し方がわかりやすかった」「塾に通わせられずとても不安でした。第一子の受験でわからないことが多く困っていました。このような会に感謝しています」等々、好評です。

2017年は9月24(日)10時 ルミエール府中 とのことだ。

これまでの来場者の感想が掲載されている。

5/15 コンパスナビ編集部も発言の機会をいただいた

コンパスナビの就労支援・自動車運転免許取得助成・住まい支援のお話をさせていただいた。
また、シンボルマークのピンバッチを教授と大学生講師が付けてくれている写真を送ってくださった。

生きづらさを抱えて頑張っている子どもたちに伴走する同志である他の支援団体の温かさに触れた思いである。ありがたいことである。

5/15にはご多忙でお話を伺えなかったが、久保田理事長、辻由美理事と写真を撮っていただいた。なくてはならない市民活動として、府中市に信頼されての事業を牽引されてきた久保田一郎理事長に敬意を表したい。

 

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