「生活困窮・ホームレス自立支援ガンバの会」をご紹介

インタビュー/特別寄稿

2017/06/27

絆をつなぎ、無縁社会を作らない。ホームレスも生活困窮者も若者もつながって生きる社会に

内閣府 子供の未来応援国民運動「子供の未来応援基金」では、「平成28年度未来応援ネットワーク事業」では草の根で貧困の状況にある子ども達に寄り添った支援活動を行うNPO法人等を支援し、社会全体で子どもの貧困対策を進める環境、応援ネットワークを構築が大きく推進された。
全国から535件の申請があり、厳正な審査の結果、86団体が採択された。
ここで紹介する「生活困窮・ホームレス自立支援ガンバの会」は、「生活保護世帯等への学習支援『夢塾』の実施」の事業が未来応援ネットワーク事業の対象とされて採択されたものである。市川市域で深い信頼を得ているガンバの会の概要から、学習支援事業実施に至る経緯を伺った。

ホームレス(路上生活者)や生活困窮といった社会的孤立状態にある人々が、再び地域に根ざす「ホーム」となる活動を続ける団体だ。

NPO市川ガンバの会は、JR総武線本八幡北口からバス通りを直進、京成八幡駅を過ぎてすぐのところにあるレンガのビルの4階にある。ビルの張り出し看板には、5階にがんば夢塾、3階にがんば夢工房と記されている。

なりたくてホームレスになったのではない

約20年前、本八幡駅周辺を歩けば路上生活者に出会うというほどで、一時は20人くらいのホームレスの人たちが路上で生活していました。

「寒さやひもじさ、病気を抱えた人もいるだろう。命にかかわる問題なので、なんとか救えないか」と、市川八幡キリスト教会のメンバーが中心となって、彼らの人間としての命と尊厳を守り、自立支援を行おうという趣旨で、1997年11月に「ガンバの会」が結成されました。

「まず、おにぎりなどの食料を配り、衣類、医料品を持ってひとりひとりの健康状態をきこうと話しかけることにしましたが、路上生活者はいままでいじめられ、人間不信になっている人たちが多く、逃げてしまったり、無視されたりで、顔見知りになってもらうまでが大変でした。

夜間パトロールも続けながら(路上支援)。それから仕事を斡旋する(就労支援)、そして病気になった人の(緊迫保護および入院支援)、ときには最期をみとることもあり、(葬祭開催)と、ホームレスの人々に寄り添いさまざまなことを行うようになりました」と言うのは、総務・子ども支援部長の鹿島美紀子さん。

やがて、世間のホームレスに対する関心も高くなり、2002年に「ホームレス自立支援法」が発令された。ガンバの会は法人化してNPO組織になり、副田一朗さんが理事長に就任し、活動の場を広げていく。

家庭で生活することを忘れてしまった

副田理事長はNPOガンバの会の理念をこう語る。

「多くのホームレスの方々との出会いから、彼らの抱えている問題は家、食料、衣類という物理的(ハウス)の貧困があります。しかしそれより、社会や共同体が貧弱であること、すなわち社会性(ホーム)の貧困がその本質にあると思っています。

そこで、ホームレスに対しての物質的、精神的支援に終わらせずに、社会性の回復を重要視し、アパート等に入居したあとにも、就労の機会の提供、趣味などのいきがいのイベントもおこなって、継続した支援をしたいと思っています」

総務担当の鹿島さんはいう。

「行政の委託を受けるようになって、市川市全体のホームレス巡回指導や自立支援もしています。一時期ホームレスの方が250人位いました。その方たちと顔見知りになって、ポツポツとお話をおききすることができるようになると、ホームレスの実情がわかってきました。

家族がいるけれど離婚されて家に帰ることができない人、年金をもらっているけれど家がない人など、高齢になってホームレスになった人もいますが、子どもの頃に親が亡くなって誰の助けも得られなかった人、国や行政の制度にのらずに戸籍がない人など、子どもの頃から家族との縁がなくて、貧困な環境から路上生活を余儀なくされた人などの厳しい現実を知りました。

長い間の過酷な生活で体ばかりか、精神を病んでしまった人もいます。

路上生活を抜け出すためになにができるか。まず、アパートなどの住むところをお世話することにしました。

路上ではなく、家で生活するということは、社会のルールのなかで生活することでもあります。

長く家庭で生活をしなかったので、ゴミの出し方がわからない。水洗トイレの使い方がわからない。水洗トイレにゴミを全部流してしまった例もありました。

人とのコミュニケーションが苦手ですから、玄関でピンポンとならされるだけで怖くなると話す人も。他人の目が怖いので、他人になかなかなじめません。

銀行のATMの使い方がわからない。わからないことだらけで困惑する日々。

家を世話しても、その人にとっては家に住むことが束縛以外のなにものでもないので、アパートから居なくなってしまうことも度々あります。本人にとっては、路上生活が居心地がいいと感じる方もおられます」

路上を抜け出して自立の第一歩を踏み出す

それでもめげずにメンバーたちは支援をつづけます。

ホームレスの人たちは、人を見るときに肩書きや地位などは関係ありません。人間性だけをみて判断されるので、みせかけの親切などすぐ見破られてしまいます。なにがその人にとって必要なことかを考えながら、ねばり強く活動をつづけているのです。

「あのビルは自分が若いときにつくったのだ」と、かつて建築現場で働いた輝かしい日々があったことを教えてくれる人もいます。リストラされたり、病気になったりの、ちょっとしたことで歯車が狂いはじめた人生を、高齢者は「自業自得」と自分を責めるのです。

多くの人は自立のために生活保護が必要なので、手続きをし、路上生活を抜け出す一歩を踏み出してもらうようにしています。

毎月支給されるお金は、自分でお金の管理をしなければなりません。そのお金でやりくりするのはむずかしい。手許にあるお金はすぐ使ってしまいます。

「税金からもらっているのだから、パチンコをやるためではないのよ」と、諭しながら、まず最初は、一緒に買い物にいって1日にどのくらいの食料を買ったらいいのか、なにが必要かなどのお金の使い方を学んでもらいます。生活の場をひとつひとつ組み立てていくことで、ひとりひとりの生活ぶりは変わり、変わっていき、ふつうの生活ができるようなっていきます。

詳細な事業内容はガンバの会ホームページを参照されたい。

生活困窮家庭の子どもの未来が輝くために

骨壷の白い箱が祭られていた。ガンバの会の現実と格闘する凄みを見た思いだった。

家庭環境が悪く、子どものころに教育が受けられなくてその後の苦しい生活を余儀なくされる人。文字が読めないために仕事もままならず、ドロップアウトしてしまった人たち。

家庭環境の悪さから十分な教育を受けられずに育った親がいて、その子どもの環境は悪い。このままでは負の連鎖が次代につながっていく。

本来、全ての子どもたちに均等に与えられるはずの無限の可能性のある将来が、教育も受けられずに絶たれてしまうのは残念。決してあってはならないこと。

  そこで立ち上げたのが「がんば夢塾」。

内閣府「平成28年度未来応援ネットワーク事業採択団体」として認可も受けた。

副田理事長は「私たちがみてきたホームレスの方々の学校にいけなかったためのつまずきをなくしたい。がんば夢塾は勉強だけでなく、ここに自分たちの居場所があることを知ってほしい。なにかあったらここに戻ってこられるところだということを体験してほしい」という。

月曜日から金曜日までの午後3時から夜9時まで、学習でわからないところを教えてもらえる塾だ。対象は小学生から高校生までで、生活保護家庭及び年収250万円以下の生活困窮家庭で、市川市在住の児童が基本。(これ以外でも相談にのってもらえる)。費用は小学生3,000円、中学生5,000円、高校生7,000円(生活保護で教育扶助に見合う金額/子どもに出されたお金は子どもに使いましょうという親の意識づけもあって)。

中3男子、地域の退職教員が教えている後姿。陸上部、涼やかな目元のハンサムな男子。県立の普通科の志望校に進学できますように。フードバンクと連携ができていて軽食の提供もあった。

シングルマザーで生活に余裕がない母親に、DVを受けたり、ネグレクトされ、学校のいじめも受けてしまう子どもたち。親が精神を病んでいると、子どもも精神を病んでしまうこともある。親が勉強の仕方がわからないので、子どもまでも学校でダメのレッテルを貼られて不登校になってしまう子ども。

がんば夢塾へ来れば、仲間がいて平安な心を取り戻せるだろう。

塾の教師となるのはボランティアスタッフ。退職後の人も多く、子どもにとってはおじいちゃん、おばあちゃん世代だけれど、精神は若い。ほぼマンツーマンで学習を教えるほかに、子どもの様子も話をきいてチェックする。

子どもは自分の親が好きだから、決して本当のことはいわないが、「どうやら暴力をうけているらしい」などが雰囲気でわかると、その対策を練る。

逆に「お母さんが『お前ががんばって中学校にいったから、私にも勉強を教えてと言われた』とうれしそうに話す子どももいる。

近年、スタッフがうれしいと思うのは、がんば夢塾に来る子どもが全員、高校に入学できたこと。そして「卒業しました」と報告にきてくれること。

気持ちを立て直した子どもたちが増えている。

外見ではわからない若年ホームレスが増えている

「5、6年前から若い人のホームレスがガンバの会をたずねてくることが多くなりました」と鹿島さんはいう。

「年齢が高い人はホームレスということが外見からすぐわかります。それでこちらから声をかけるのですが、自分が悪くてホームレスになったのだからと自分から支援を求めてくる方はあまりいません。

一方、若者は外見からはホームレスということがわかりません。こざっぱりした洋服を着ていて、路上では決して寝ません。ネットカフェやファーストフード店で過ごします。仕事はスマホで探します。仕事もみつからず、ついにお金がなくなると自分から支援を求めにきます。来てくれるだけいいと思っています。

若年ホームレスは、養護施設で育ったり、両親と死別したり、親のDVを逃れている人、親が事業に失敗したとか、実家がないとか、過酷な環境で育っています。18歳過ぎて自立しなければならないときに、中卒であるとか、自宅から通えないなどの不利な条件のために、不安定な単純労働にはいることになります。住むところが優先するために住み込みであるとか、風俗とかの仕事に入ることもあります。ほとんどかアルバイトや低賃金の仕事です。そこでつまずけば、すぐに路上へと放りだされます。

悲しいことに、帰る場所がないのが致命傷になります。家族と折り合いが悪かったり、家族関係が悪化している若者が追いつめられてしまう現実があります」。

立ち直るための「居場所」と「自己有用感」

鹿島さんの穏やかな笑顔と口調、かたくなな心をどれだけほぐしてきたことだろう。

若年とはだいたい40歳くらいまでをいいますが、大半は働いた経験をもっています。体や心がこわれるほど正社員として懸命に働いていた人もいます。しかし、会社の景気が悪くなったり、何度かの転職をくりかえして、派遣社員になり、アルバイトになり、だんだん条件が悪くなり、ついには仕事がなくなるケースが多いのです。

そこでガンバの会では若者の駆け込みに備えて、シェルターを運営しています。性別、年齢を問わずに、社会生活の再スタートが切れるようにしています。又、生活困窮者のひとりひとりに向き合って相談を受け、早期の自立を図っています。

また、厚生労働省より、「無料職業紹介事業所」の認可を受けています。千葉県からは「就労訓練事業所」の認定を受け、仕事への復帰を後押ししています。

若者に必要なのは安心して暮らせる「居場所」と、「自己有用感」です。仕事を失ったこと等での「どうせ自分なんか」という自信のなさをもつようになると、他人との接触もおっくうになります。明るくすごせるような居場所であり、友人のいる場所を提供できるのがガンバの会の強み。

また、働きたいという強い意欲があって、自動車の免許証があれば就職の幅が広がりますし、強力な身分証明書にもなります。条件さえあえば、運転免許証を無料で取らせてもらえる制度もあるので、勇気をだして連絡してほしい。きっと、道はひらけるはず。

特定非営利活動法人 生活困窮・ホームレス自立支援ガンバの会
千葉県市川市八幡3-28-23 本八幡イーストビル 3F
がんば夢塾 本八幡イーストビル4F

 TEL:047-704-9915
HP:http://npogamba.wix.com/ichikawa2