東京都立秋留台高校を訪ねて②全国初の学び直しの学校

インタビュー/特別寄稿

2017/04/14

アキルスピリッツ―とことん面倒を見る熱い思い ②

2016年に創立40周年記念誌別冊として作成された「改革の黙示録」には、東京都立秋留台高校がエンカレッジ校として14年(2016年時点)を迎え、磯村元信校長が着任してからの9年間は生活指導の徹底を主に、中途退学者の減少、授業規律の確立に腐心してきた足跡が赤裸々に記されている。そして創立50周年までの10年間の目標として、学び直す学校として教職員が一丸となってエンカレッジ校(※)の特色をさらに発展させ、多様な生徒の面倒をとことん見て、自らの希望する進路を実現できる生徒を育成し、地元・地域で活躍できる人材の輩出を目指していく展望が示されている。
(東京都立秋留台高等学校 〒197-0812 東京都あきる野市平沢153-4 電話 : 042-559-6821 ファクシミリ : 042-558-3164)(アクティブラーニング推進校・授業のユニバーサルデザイン推進校・授業交流 拠点校、キャリア教育有料学校 文部科学大臣賞受賞)
最寄り駅:JR五日市線 東秋留駅より徒歩20分

主に校長通信(ぼうず通信)のダイジェストから感銘を受けた箇所を紹介する。飾らぬエンカレッジ校(※)の現実が描かれている。

【泣ける学校(平成21年度)】から

正直に心を打ち明ければ、私は大変な学校(色々な意味で)が大好きです。かつて、問題ばかり起こすやんちゃな生徒を集めて柔道で関東大会に出場した、あの頃の汗と涙と感動がよみがえってくるからです。部活を強くする楽しさが、今は、学校を良くする楽しさに変わっただけのような気がします。大変な学校こそが、生徒と先生が本音でぶつかり、悔し涙やうれし涙を流すことのできる「泣ける学校」となりえるからです。

【ぼっちゃん(平成22年度)】から

「入学させた生徒が全員卒業できる学校」この当たり前のことを目標に掲げて平成22年度をスタートしました。(市場原理が導入され、スピードが求められる状況を見て)

時間をかけて効果が認知される。
一定の時間にさらされることで淘汰されたり、付加価値が高まったりする。それが学校、すなわち教育の時間です。

【言葉の力(平成23年度)】から

「口数は多いのに、言葉が足りない」・・・・・・家庭や学校で巻き起こる数々のトラブルの元凶は言葉に他ならない。・・・・・・・(校門横に張り出す「今月の言葉」について)「年度末、先生との別れを惜しむ卒業生が『出会いで学び、別れで育つ。だよね、先生』と言ったそうです。標語を自分の思いで語る生徒がいる。それを聞いたときほっと暖かい気持ちになりましたそして言葉がもたらす生徒の成長を実感するのでした。

【当たり前の学校(平成24年度)】から

(やっと学校が落ち着いてきたなと安心していたところに、次々と問題行動が起こり年間の特別指導が100名を超えた年)現在は家庭の経済力と教育力が正比例で二極化しています。「学び直し」を請け負う高校では、生徒がやめずに学校とつながっていることが、少年犯罪やひきこもり、ニートを生み出さない社会のセーフティネットとなり、それがまた国を支える納税者を育成することにもつながります。そのためにはまず学校の「当たり前」を柔軟にかえなくてはなりません。「当たり前」のパラダイムシフトです。

【一隅を照らす(平成25年度)】から

(卒業式の生徒の歌声と担任の感涙にむせぶ光景)多くの問題を抱えた生徒たちを最後の最後までとことん面倒見て全員を卒業まで導いた学年団の言葉にならない労苦に、私も感謝の涙が止まりませんでした。

(問題行動が頻発した学年で、ベテランの学年主任らが異動し、若い教員たちが苦労した背景があった)発達障害、統合失調、うつ症状など精神の変調をきたした生徒の対応は、これまでの学校の常識をはるかに超えるものがありました。さらに、そういう生徒の保護者も同じように心の不調を抱えている場合が少なくありません。保護者の協力も得られない状況での生徒指導は困難を極めました。ひとり親や外国籍の親の家庭は精神的にも経済的にも厳しい現実があります。また精神の不調を抱えた生徒の進路は極めて険しい道のりが待っています。さらには学校をやめた生徒の末路にも心が痛みます。これが格差の広がる今の社会の一風景なのだと思います。こうした現実を前に高校で何ができるのか、私には「入学させた生徒全員の進路を決めて卒業させる」このスローガン以外に思い浮かぶものはありません。しかし、そのスローガンは日々課題を抱える生徒の面倒を見る教員には重い十字架となります。「どこまで面倒を見ればいいのか」「なんでもありなのか」そういう苦悶の声がいたるところから漏れ聞こえてきました。

こうして苦闘の中で過去最高の数の卒業生を社会に送り出すことができました。経済格差が進む中で、学力格差が経済格差を固定化する悪循環を生み出しています。さらに格差の底辺では凶悪犯罪への落とし穴が口を開いて待っています。学力面でも生活面でも課題を抱えた生徒の小さな成長を粘り強く支えていく、本校の地道な取組が少しでも『負の連鎖』の歯止めとなればと願っています。まずは自分の足元を照らすことから始める。教職員ひとりひとりの一燈一燈に心より感謝したいと思います。

【あきるの風(平成26年度)】から

生徒が描いてくれたそうだ(!!)

昨年度も様々な風が吹き荒れました。問題行動を繰り返す生徒、その対応に追われる担任や学年団。連日夜遅くまで生徒指導の会議が続きました。「もうこれ以上面倒を見きれない」「我々が倒れてしまう」「真面目にやっている生徒に手が回らない」(示しがつかない、この学校は何をやっても卒業できると問題児たちがうそぶいている、一定の決断をしようと苦悩する校長のところに、問題行動を繰り返す当該生徒をそれでもやはりこの学校で卒業させねばと担任が泣きながらやってくる)。

針のむしろでもがいている担任の言葉に勇気をもらいました。最前線で戦っている担任を支える、それが校長の使命です。

【私はルンバ(平成27年度)】から

人としては大好きだが、その下で働くのはつらい。死にそうになる。・・・・・・教員から見ても魅力的な学校にならないとがんばる人も集まらない。出ていく人も多くなると思います。

(その他、進級の評価が甘すぎる、まじめな良い生徒の学習意欲をそいでいる、など教員から校長への率直な意見を受けて)

自転車操業に喘ぐブラック企業さながらの実態です。企業も学校も表向きうまくいっているように見える時ほど危険です。

昨年度(平成26年度)は卒業式の後に、さらに2回の卒業式をやりました。1回目はいじめが原因で登校できなくなった生徒の卒業式。2回目は欠席数がオーバーして補習を3月末までやった生徒たちの卒業式です。そのために不登校者のクラスを学年団が自助努力でつくりました。年度を越えた4月を迎えても補習の終わらない生徒がひとり残っています。

 これまでに「怠惰」という言葉でひとくくりにされてきた生徒たち。その中には、親の離婚やDV、虐待やネグレクト、家庭にいられず施設から通う生徒もいます。こうした家庭の問題や発達障害など様々な課題を抱える生徒をどこまで面倒を見るのか。一般的な高校の感覚からはずれている。何でもありではやりきれない。校長の掲げた「とことん面倒を見る」という看板が現場の悲鳴でゆらいでいます。

今にも死にそうな若者たち(生徒も先生も)がここにいる。ふっと気付けば逃げそびれて行き場を失った校長が学校の中をグルグルと彷徨っています。私はルンバ。

※エンカレッジ(encourage)とは「励ます」という意味です。中学校での学習で十分に力を発揮できなかった生徒や、高校入学後あらためて学び直しをしたいと考えている生徒を励まし、自信を与え、潜在能力を伸ばすことを目的としています。そのために、基礎・基本を徹底し、体験を重視した学習指導を行います。また、服装・頭髪など生活指導を厳しく丁寧に行い、将来の目標を持たせる進路指導を行います。

出典:東京都立秋留台高校平成29年度学校案内