NPO法人 教育研究所所長 牟田武生氏インタビュー

インタビュー/特別寄稿

2017/03/01

ひきこもり、ニートの人たちが社会参加や自立するまで。支援40年の臨床・知見の巨人に会う

不登校、ひきこもり長期化からくるニートへの移行を予防し、 心の悩みだけでなく、本人の社会的自立を目指す若者自立支援に注力している事業ーーー
不登校・ひきこもりの実践臨床研究に40年以上の実績をもち、合宿型支援で確実な効果を出して若者を自立に導いて10年以上になる牟田武生氏にお話を聞く貴重な機会を得た。
さらに児童養護施設・自立援助ホームからの自立に関わる事業にも言及。
長くこの事業を継続されてきたパッションに触れたインタビューであった。エッセンスをお伝えしたい。

氏は、ひきこもりやニートの方が社会参加や自立するための支援を40年の長きに渡り行っている。
24歳の時に民間の教育施設、教育研究所を開設。それ以来、主にひきこもりタイプの不登校の子ども達と関わる。 1984年4月に昼間の不登校の本格的な教育施設「教育研究所」を開設、翌年、ひきこもりの子ども達の家庭訪問事業をはじめる。 その後、「適応指導学級」(文部省が予算化し教育委員会が開設)のモデル教室の1つになる。 不登校の臨床数は1万ケースを超える。より広く多くの方々への援助活動を展開していくために、平成16年度より特定非営利活動法人(NPO)となる。
(Wikipedia 参照)

【プロフィール】 特定非営利活動法人 教育研究所 所長 牟田武生(むた たけお)

教育コンサルタント
NPO法人 教育研究所所長
1947年生まれ。
1972年 教育研究所設立(民間団体)
不登校・ひきこもりの実践・臨床研究を40年以上続ける
元NHKラジオ「こども教育電話相談」レギュラー相談員
特定非営利活動法人 教育研究所理事長 問題行動研究会 代表幹事
2005年~2007年 文部科学省初等中等局生徒指導調査研究審査委員
2006年 厚生労働省「若者自立塾」を富山県黒部市宇奈月温泉で主宰
2013年 東京都29回青少年問題協議会委員
現在 東京家学・関西家学顧問・フリースクール学校評議員

主な著作・調査研究
文部省委託調査「不登校に関する実態調査」
平成5年度不登校児童生徒追跡調査報告書(01.8)共著
「総ガイド高校新入学・転編入」オクムラ書店(毎年調査発行)
「ひきこもり/不登校の処方箋」オクムラ書店2001.6
この本は東映教育ビデオの原作 監修者牟田武生 監督山口隆己2003.11
「子どもが不登校になったとき」~心の扉を開くヒントと対応~
「教師のための不登校Q&A」~子どもの心と向き合うために~
「すぐに解決!子ども緊急事態Q&A」 オクムラ書店(2002.3)
「ひきこもり/不登校の処方箋」増補版 オクムラ書店(2003.7)
池上彰が聞く「僕達が学校に行けなかった理由」オクムラ書店 監修者牟田武生(2003.8)
「ネット依存の恐怖」 教育出版(2004.2) (韓国語版は2006.8 智慧文学 韓国発売)
NHK「福祉ネットワーク」30分2本番組になる「ネット依存」2004.7放送
「ニート・ひきこもりへの対応」教育出版(2005.8)
「ジャパンクール」三松出版(2006.8)
「オンライン・チルドレン」オクムラ書店(2007.3)
「現代型うつ病予備軍「滅公奉私」な人々―蔓延する「めんどくさい・かったるい症候群」の深刻」ワニ・プラス(2012.2)
「新型うつ病の症状と対処法 会社に行きたくない」インプレス(2014.7発売)
雑誌、論文

「教職研修総合特集」読本シリーズN0166(2005.5)
「児童生徒の問題行動対策重点プログラム」の検討、教育開発研究所
教育と医学2006.7No 637「二―トからの脱出:自立支援塾」慶応義塾出版会
信用金庫2007.4「若者力が地域を変える」
月刊福祉2007.5「若者の自立・就業支援の実践とセーフティネット」
職業能力開発ジャーナル2007.10「若者自立塾の取組紹介<5>」
厚生労働省職業能力開発局編
日経Kids+2007.12「ケータイゲーム依存」
児童心理2008.2「ゲームにはまりこむ子どものタイプ」金子書房
教育と医学2008.4「不登校の過去・現在」慶応義塾出版会
日経Kids+2008.5私立に「いじめがない」「荒れがない」はホント
灯台2008.6「不登校は克服できる」第三文明社
ほか多数

受賞
1992年 神奈川新聞社「神奈川地域社会事業賞」
2008年 若者自立支援厚生労働大臣賞受賞(個人) 

富山県黒部市の宇奈月自立塾で行う若者の就労支援の活動

これは、不登校・引きこもりが長期化して、ニートになるケースに対応するため、厚生労働省の委嘱を受けて「宇奈月若者自立塾」という合宿形式による共同生活のなかで、生活訓練・就労体験を行い働くことに関して自信と意欲を身につけるというものを、富山県黒部市宇奈月温泉に開設し、若者の就労支援の活動を行っている。共同生活(合宿訓練)は非認知能力を向上させる絶好の機会となり、自己肯定感の再構築に成果を上げている。
就職を勝ち取り、そのまま宇奈月自立塾に残る若者もいて、「仕事をする」ことで自分で家賃・生活費・おこづかいの管理をし、お金を貯めながらいよいよ本当の意味での自立を目指すのだそうだ。そこまで、職員が「伴走」するということだ。

編集部は冒頭こう切り出した。

「私どもコンパスナビは高校部活応援WEBマガジン『ナビ部』にて定時制通信制の高校の部活動、特別活動にスポットを当てて紹介しています。先日NHK学園高校の文化祭を取材しました」。

すると牟田氏は豊富な経験から興味深い話をしてくださった。

「そうですか、それは大事な活動です。NHK学園高校の成り立ちについてお伝えします。戦後の混乱期に学業に専念できなかった人たちのために創設したものでして、中学を除籍になった人でも、また、一度高校を出ていても入学することができる学校なんですよ。さらに言うと放送大学は、高校を卒業していなくても入学することができるのですよ。
しくみを作るときに要望を盛り込んでもらうのに苦労しました。元は働く人のための学校でした。ですからスクーリングが月に1回でも、社会を知っている生徒対象だったので当時はよかった。しかしこの15年ほどは中学不登校の延長で通信制の高校に入学してくる生徒が対象となってきたので、月1回のスクーリングでは社会がわからない。毎日ではなく週2回、3回なら学校に行ける生徒がいるとのトレンドですが、社会性を醸成する補完の意味もあるのです」。

その後、寄付文化が日本にはなかなか根付かない実情と、社会貢献活動運営の持続可能性を担保するには財務的な苦労がついて回るといった話で共感しあった。

さらに、生活保護を受けている生徒が多数在籍している、ある高校について、牟田氏は、手に職を付け、貧困の世代間連鎖を断ち切ることについての積極的かつ柔軟なカリキュラムの在り方についても国の教育行政への希望を熱く語った。

続いて、公共交通の発達していない地方では、車の免許を保有していないと就職の幅が狭まる、しかし彼ら彼女らに約30万円の運転免許取得費用は到底用意できない。なんとか道はないものかと行政や民間団体の力の必要性にも言及した。

さて広く知られているとおり、牟田氏は富山県黒部市の宇奈月自立塾で若者自立の事業を推進している。

インタビューをしている私たち一般社団法人青少年自助自立支援機構(コンパスナビ)は児童養護施設を巣立つ若者の支援の事業を行っている団体である。自動車の運転免許取得支援を柱に、就職支援を行い、困難な生い立ちの若者の自立の後押しをしている。

牟田氏の若者の自立に関わる活動は「にいかわ若者サポートステーション」などさまざまあるが、2016年10月からは、児童養護施設からの巣立ち(リービングケア)にフォーカスした活動を始めたところだと伺って、さらに啓発を受け共鳴した。

2017年3月から「自立援助ホーム」事業が開始!(富山県初)

生活保護家庭の子どもを母子分離、世帯分離させて、なんとしても子どもを自立させるのだとの活動に言及するや、穏やかな牟田氏のお顔が紅潮してきた。

骨子はこういうことだ。

自立のための施設に住まわせて、施設から高校に通うことを支援している。ある子が生活保護費用だけでは免許費用が出せないので、アルバイトを三年間続けてきて30万円貯金できた。そしてもう親のところには帰りたくありませんという。富山県、魚津市の事業として、生活保護家庭の子を(世帯)分離して面倒を見ながら、生活スキル、コミュニケーションスキル、基本的な学力を身につけさせようというものである。その生活の中で子らの内面に自立の気持ちが成熟してくるのだ。

施設退所後へのまなざし--「ルンルンカフェ」事業(訪問)

教育研究所のHPにはこの施設に出向く事業の紹介がこのように掲載されている。

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2016/10/12

ルンルンカフェ事業開始について

児童養護施設利用者を対象として、会話や相談ならびに社会自立のための対話を行うルンルンカフェ事業を開始いたします。

社会に進むあなたへ

 相談やプチ知識をお話しましょう。

【お話ししましょう】

みなさんと一緒にお話しできる場所が「ルンルンカフェ」です。
ここで私たちと一緒に日常的に何気ない会話やちょっとした相談、社会に出ることや仕事についての相談など、いろいろなお話をしましょう。
たとえば、
・日常的なおしゃべりの相手として
・誰にも言えないけど相談したい、その相手として(秘密は絶対に守ります)
・社会に出ることや仕事をすること、など聞いてみたい相談したい相手として
などのお話や相談の相手として、私たちがいます。

【知ってほしい】

みなさんが社会にでたとき困らないように、もし困ってしまっても恐れずに慌てずに済むように知って欲しいことをお話ししませんか。

たとえば、
困ったときの相談の仕方や情報の集め方
お金の使い方
社会での常識や知識
などを私たちとお話ししませんか。

【カフェ実施予定日】

第3週の火曜日18時30分~1時間程度を予定
実施施設にスタッフが訪問いたします

【対象者】

児童養護施設入所者
同施設の退所が近い方
中学3年生~高校3年生

【本事業について、私たちの想い】

現在、生活困窮者自立支援法や子供・若者育成支援法の施行から、様々な若者や生活困窮者の支援が始まり、富山でも様々な取り組みが行われております。ただ、より一層の支援の充実を図る為にも、貧困等の困窮状態に陥った事後の対処だけではなく、これからは予防的な観点も考える必要があると考えられます。

児童養護施設を出た後の子どもたちがその後、どう現代の社会で生きて行くのか?また、経済的に困窮した時や病気等の時にいかに切り抜けるのか?

その為にも自立して社会生活を行う為の社会資源等の知識を身につけてもらい、反社会的な行動や団体に頼らず自分らしく希望が持てるよう生きて行ってもらいたいと考えております。

マクロからミクロへさらにそれらが社会的包摂(ソーシャルインクルージョン:社会の中で共に助け合って生きていこうという考え方)を遂げてこそ本人達に行き届く支援が出来ると我々は考えております。

若者自立支援の活動について、さらに話を伺った。

「母親が再婚し、再婚相手に虐待され、中学校の先生に相談して児童相談所に保護された子どもが、児童養護施設から通って何とか高校は卒業するものの、3月31日で施設を出なければならない。しかし連帯保証人になってくれる人もいない施設出身の子が働き口は過酷なところばかりだ、体を壊し働けなくなってアパートを出される。路上生活になる。空腹に耐えかねて食べ物を万引きする。幸運なことに警察に捕まったら、警察から私(牟田氏)のところに連絡が来るんですよ。犯罪の背景を調べると少年院に入れては返ってこの子のためにならないといって。家庭裁判所がその子たちを生活保護を措置して寮費を出して、寮で訓練を2年間して免許なり何なりをとって自立させてくれということをやっているんです。

そこでやはり一番ネックになるのが運転免許なんです。

運転免許を持っているということは企業側からしたら、一応普通の能力があるんだなという指標になるんです。高校出たと言っても、四則計算も怪しい、アルファベットも書けない学力の厳しい子どももいる実情ですから」。

話は現在の日本の職業教育、キャリア教育、職業観などにも及んだ。

「富山県は高校卒業時就職率が全国でナンバー1の県なのですよ。それは化学、化粧品や薬の産業で不況の経験が無かった地域だったのです、さらにYKKを中心としたアルミの加工が盛んで圧倒的な技術を持っています。下請けの中小企業に就職ができる。日本中が不況だったときにもここは不況知らずだった。持ち家率は日本で第2位、床上面積では第1位、貯蓄高が第2位。しかし就職が100パーセントなのに、離職率も高いのです。定着していないところを県教委は見ていない。就職指導のところでミスマッチが起きています」。

生活困窮者自立支援法に沿って、富山県で活動を推進している様子をさまざま聞かせていただいた。

牟田氏はブログで、

「不登校やひきこもりの問題の本質はさらに深化し、長期化していき、不幸な社会に吸い込まれていく」と心情を吐露する。

70歳を迎える氏が40年間の長きに渡る果てしない臨床の日々を走ってきたのである。

人の人生を預かる事業を切れ目無くやり続けているのである。

一人でも多くの若者の自立のために知見を広めてほしい、健康でいてほしいと願う。

そして氏のような開拓者の志を受け継ぐ若い力が日本中に湧き出している。

次回は、牟田氏の薫陶を受けて力強い事業を展開する「東京家学・関西家学」の若きリーダー平栗将裕氏に話を聞く。